その住宅が、安心して暮らせる家かどうかを確認するにあたって、最も大切なことの一つとして挙げられるのが、地盤の状況と建物の傾き具合を知ることです。現況の地盤がどのように建物に影響を与えているのか、それが今後、その建物を使用し、生活していくのにあたり、どのような影響を及ぼすのか。
住まいの安全性を確認するためには、まずは地盤に問題がないかどうかを知ることが大切なのです。
傾きの測定方法
建物の傾きを測定する方法には、3つの方法があります。その方法を紹介します。
- オートレベル測定器による測定
- 下げ振りによる測定
- レーザーレベルによる測定
オートレベル測定器による測定
その地盤、建物が傾いているかどうかを知るためには、まずはレベル測量器を使用して調査します。レベル測量器にも種類がありますが、当社が使用しているのはオートレベルという、最も一般的に使用されているものです。
まず、建物の外周にレベル測量器を据えます。建物の四隅、中間点を測量点として、基礎と外壁の間にある水切りにスケールを当てて、その目盛りを読み取ります。その目盛りの差が地盤の高低差となりますので、その差で、地盤の傾き具合がわかります。

レベル測定器を据えてで当てたスケールの数値を読む

巾木にスケールを当てて、レベル測定器でスケールの数値を読む
下げ振りによる測定
そして、地盤の上の建物がどれくらい傾いているのかを知るために、2階もしくは、3階の窓から、下げ振りというおもりを下ろします。上と下とで、どれくらいの差があるかを測定することにより、建物がどれくらい傾いているのかを知ることができます。

2階の窓から手を出して下げ振りをセットする。基本的に上部では糸と壁との距離は、50mmである。

下で糸と壁との距離を測る。写真では、スケールの測定値は、55mmであるので、その差は5mmであり、さほど傾いていない。
レーザーレベルによる測定
内部の各部屋においては、床の傾き、柱の傾きを調査することにより、建物が傾いているかどうかをチェックします。まず、レーザーレベルを部屋の中心に置いて、四隅のレーザーの水平線と床との距離をあたります。そうすることにより、床がどれだけ、傾いているかを知ることができます。

レーザーレベルを床の中央に設置して、部屋の四隅の高さを測定する。

レーザーの高さを床にスケールを当てて、測定する。

柱にレーザーを当てて、柱がどれだけ傾斜しているかを測定する。

レーザーの位置から差し金の読みは20mmとなり、20mm柱は傾斜していることになる。
調査結果の見方
その建物の傾きが問題であるかどうかの判断基準は、一般的に、1000分の3(1mに対して、3mmの誤差)、もしくは1000分の6(1mに対して、6mmの誤差)と言われています。


品確法(※1)では次のように基準が定められています。
(測定距離は、床の場合は3m程度以上、柱の場合は2m程度以上の場合)
<3/1000未満の勾配の傾斜>
構造耐力上主要な部分に瑕疵が存する可能性が低い。
<3/1000以上6/1000未満の勾配の傾斜>
構造耐力上主要な部分に瑕疵が存する可能性が一定程度存する。
<6/1000以上の勾配の傾斜>
構造耐力上主要な部分に瑕疵が存する可能性が高い。
※1 品確法 : 『住宅の品質確保の促進等に関する法律』のことで、『住宅品質確保法』とも呼ばれています。住宅に関するトラブルを未然に防ぎ、そして万が一のトラブルの際も紛争を速やかに処理できるよう制定された法律です。
なお、『この基準における「構造耐力上主要な部分における瑕疵」は、大規模な補修が必要となる比較的重要なものから局部的な補修のみが必要となる比較的軽微なものまでを含むものであること』とされています。
調査結果の例
検査結果の例として、下記結果表をご覧下さい。

※こちらは当社が実際に利用している検査結果表になります。
実物には図面も付けてわかりやすく結果を記載してあります。
結果表を見ると、測量値の最大誤差は、2階洋室1の+6mmとなっています。
6mmということは、問題がある数値なのではないかと思ってしまいそうになりますが、測量地点の距離が1mしかないということはほとんどありません。つまり、実際の誤差は+6mmよりももっと低いということになり、この数値でも問題はないと判断できます。
傾きの事例
それでは、実際に建物が傾いていた場合、どの程度の傾きで問題が出てくるのでしょうか?傾きの度合いによって、次に示すような現象がでてきます。
外部の場合
100㎡程度の建物において、建物の端と端において、
最大20mm程度、傾いていたならば、建物に特に影響はでてきません。 許容範囲であると言えます。
40mm程度、傾いていたならば、少しづつ、影響が出てきます。 土間のコンクリートにひびが入ったりします。
60mm程度、傾いていたならば、さまざまな影響が出てきます。土間のコンクリートには、大小のひび、亀裂が入ってきます。基礎コンクリートや外壁にも、ひび割れが入りだします。

60mm程度傾くと基礎にひび割れが出てくる。特に換気口廻りなどの他より弱い部分にびび割れが入りやすい

60mm程度傾くと外壁にもひび割れが出てくる。窓など開口廻りなどの他より弱い部分にびび割れが入りやすい
80mm程度、傾いていたならば、あちこちに影響が出てきます。
土間のコンクリートには、大きなひび、亀裂が入り、段差などもできてきます。
基礎や外壁にも大小のひびが入り、ブロック塀などにも目地にひびが入り、目違いができます。

80mm程度傾くと外壁のひび割れは、さらに大きくなる。

土間においても大きなひび割れが発生する。

無筋コンクリート基礎であれば、基礎が折れてしまう。

ブロック塀には、目違いができる。この部分から水が浸入し、鉄筋が錆びると倒壊の危険性が高くなる。
100mm程度以上、傾いていたならば、埋設配管にも影響がでてきます。配管の勾配が狂い、配管の内部に水が溜まったり、逆勾配になったりして、水の流れが悪くなります。また、会所の取り合い部分には、亀裂が入ったりして、汚水の漏水につながります。
内部の場合
6帖程度の部屋において、
10mm程度の傾いていたならば、ほとんど傾きを感じません。(個人差はあります)生活するにあたり全く影響がなく、許容範囲であると言えます。
20mm程度の傾いていたならば、傾きを感じる人もいますが、生活にはほとんど影響しません。
30mm程度の傾いていたならば、ほとんどの人が傾きを感じます。ビー玉を床に置くと、右から左にコロコロと転がりだします。建具の上部と下部において、隙間ができだします。建具枠周りにも隙間ができて、天井の廻り縁にも隙間が見えるようになります。また、壁にもひび割れが入りだします。壁、柱も同じように傾くので、家具を置くと、壁と家具の間に隙間ができます。
40mm程度の傾いていたならば、そこに居ると気分がおかしくなる人も出てきます。扉の開閉の際には、床に擦れたり、枠に建具が当たったり、引き違いの扉であれば、滑らなくなり開閉困難となります。

30mm以上も傾くと障子と柱との間に隙間ができる。

壁には、大きなひび割れができる。

扉は、上枠にあたり、閉まらなくなる。

扉と上枠とは、10mm以上の隙間ができる。こうなると、扉が床に擦れて、開閉ができなくなる。
問題の対処方法
それでは、検査結果で傾きに問題があった場合、どうすればいいのでしょうか?まずは、その傾き、不同沈下が今後、進行していくのかどうかがポイントとなります。
地盤の沈下が原因の場合は、その沈下が古くに起こったものであれば、すでに地盤が安定しており、今後も進行していく可能性が低いと言えます。しかしながら、建物自体が比較的新しく、沈下が最近に起こったものであれば、今後も進行していく可能性が高いと言えます。沈下が最近に起こったものであるかどうかは、土間や外壁などのひび割れ状況などを見れば、だいたい判ります。
それでは、傾きが許容範囲を超えているが、それでも、この家が気に入っていて、修繕して住みたいとなると、どうするのでしょうか。対処法としては、家を基礎からジャッキアップさせて、正常な状況に戻すということになります。しかしながら、それは多額な費用がかかります。費用は、家の構造、規模、状況により、大きく変わってきますが、数百万円くらいはかかるだろうと思われます。
また、傾きの原因は地盤沈下によるものだけではありません。建物の構造的な問題の場合もありますし、室内の場合ですと、建物の傾きが原因ではなく、床下地材などに問題がある場合もあります。
いずれにしても、地盤・建物が傾いているというのは、大きな問題ですので、建築士と相談した上で購入するかどうかの判断となります。
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