土間コンクリートと建物にできた大きな隙間

擁壁造成地で発生した不同沈下の疑い事例を解説。基礎や土間のひび割れ、テラスと建物の隙間から読み取れる地盤リスクとは何か。経過観察で済むケースと地盤改良・沈下修正が必要なケースの違い、費用感や判断ポイントまで分かりやすく説明します。中古住宅購入前に必ず確認すべき地盤の注意点とは。 住宅・建物の調査・診断事例
擁壁造成地で発生した不同沈下の疑い

 本事例は、築45年数を経た木造住宅に関するご相談です。敷地は、傾斜地で造成したもので、先に石垣の擁壁を築造し、その背面を盛土して造成された宅地です。

 ご相談内容は、「基礎と土間コンクリートに大きな隙間があり、ひび割れや目違いが気になる。敷地は安全なのか、建物は沈下していないか確認してほしい」というものです。

 擁壁を伴う造成地では、このようなご相談は決して珍しくありません。盛土部分の圧密や地震の影響により、時間の経過とともに不同沈下が現れるケースもあるため、慎重な確認が必要となる典型的な事例です。

現状の状況

現地にて目視確認を行いました。状況は以下の通りです。

 ✔ 南側テラスコンクリートが建物基礎から約20mmの隙間がある
 ✔ コンクリートに目違い(段差)あり
 ✔ 基礎および土間コンクリートに比較的大きなひび割れがある

テラス部分と建物が分離している状態は、地盤が沈下して傾いている(不同沈下)可能性があります。

テラス土間の隙間
テラス土間と基礎との間に20mmの隙間がある
土間コンクリートのひび割れ
土間コンクリートに大きなひび割れがある

何が起きているのか

 この状況から推測されるのは、不同沈下の可能性です。不同沈下とは、建物や地盤が均一に沈むのではなく、場所によって沈下量が異なる現象をいいます。その結果、

 ・土間コンクリートに大きなひび割れ、亀裂ができる。
 ・その亀裂、ひび割れ部分には段差ができる
 ・建物が傾く

などの現象が生じます。

想定される原因

■ 盛土の転圧不足

宅地造成時に、

・擁壁を築造
・背面を埋め戻し
・盛土造成

を行いますが、その際に十分な転圧がされておらず、建物の荷重に地盤が耐えていない場合、時間の経過とともに盛土部分が沈下を起こします。そして、建物も一緒に沈下します。柔らかい部分と硬い部分があれば、柔らかい部分に建物が傾きます。そして、土間コンクリートにもひび割れが発生し、建物と土間コンクリートの間に隙間ができます。

不同沈下に関して、以下の記事を参考にして下さい。

■ 地震の影響

 大きな地震が発生すると、地盤には強い揺れが繰り返し加わります。阪神淡路大震災のような強震動では、特に盛土部分に大きな影響が出ることがあります。

 盛土とは、もともとの自然地盤の上に土を運び入れて造成した人工的な地盤です。この盛土部分は、自然に長い年月をかけて締め固まった地山(じやま)に比べて、締まり具合が不均一なことが多くあります。地震の揺れによって、

・盛土部の土がさらに締め固まり、沈下する
・緩んでいた土が再び圧縮されて体積が減る(再圧密)
・擁壁の背面の土が動き、わずかに変位する

といった現象が起こる可能性があります。その結果、地盤が部分的に沈み、建物やテラスにひび割れや段差が生じることがあります。

 一般に、盛土造成地は自然の地盤よりも沈下や変形のリスクが高い傾向があります。だからこそ、擁壁のある宅地では「地震後の地盤の動き」にも注意を払うことが大切なのです。

放置するとどうなるか

不同沈下が進行すると、

 ・基礎ひび割れ拡大
 ・建具の開閉不良
 ・配管の詰まり、破損
 ・外壁亀裂、それによる雨漏り
 ・建物の傾斜進行
 ・健康被害

につながります。軽度であれば部分補修可能ですが、進行すると大規模工事になります。

改善・対策方法

経過観察で対応できるケース

まず確認すべきなのは、沈下が現在も進行しているのかどうかです。

・ひび割れが過去のもので拡大していない
・建物の傾斜が安定している
・テラスの隙間が広がっていない

このように、沈下が「止まっている」と判断できる場合は、すぐに大掛かりな工事をする必要はありません。

この場合は、

  • クラック(ひび割れ)の補修
  • 定期的なレベル測定(傾きの確認)
  • 半年〜1年ごとの経過観察

といった対応を行います。大切なのは、「今後動かないかどうか」を確認することです。

地盤改良が必要となるケース

一方で、

・沈下が今も進行している
・盛土範囲が広く、支持力が不足している
・擁壁背面の土圧が影響している

このような場合は、地盤そのものを強くする工事が必要になります。代表的な方法は次のとおりです。

● 鋼管杭工法

細い鋼管杭を地中の硬い地盤まで打ち込み、建物を支える方法です。軟弱層が厚い場合に有効です。

● 表層改良

地表付近の軟弱土にセメント系固化材を混ぜて固める方法です。比較的浅い軟弱地盤に適しています。

● 薬液注入

地盤に薬液を注入して固める方法です。地盤を掘削せずに施工できるメリットがあります。

 ただし、どの工法を選ぶかは、地盤調査結果によって決まります。そして、現場の状況ができるかできないのか見極めが必要です。また、費用的にも高額になる場合があります。

建物の沈下修正が必要なケース

 すでに建物が大きく傾いている場合は、地盤改良だけではなく建物自体を持ち上げて修正する工事が必要になることもあります。

代表例は次のとおりです。

● アンダーピニング工法

 基礎の下に杭を設置し、建物を持ち上げて支持させる方法。精度は高いですが、工事費用は高額になります。

● ジャッキアップ

 建物をジャッキで持ち上げて水平に戻す方法です。ただし構造的な検討が必要で、慎重な判断が求められます。

これらの補強方法について、以下の記事を参考にして下さい。

費用について

 地盤改良や沈下修正工事は、内容によっては数百万円〜一千万円規模になることもあります。そのため、

 ✔ 本当に進行しているのか
 ✔ 修正が必要なレベルか
 ✔ 建物を直すべきか、それとも建替えを検討すべきか

これらを総合的に判断することが重要です。

購入判断のポイント

まず確認すべきなのは、基礎や土間コンクリートに生じているひび割れ(クラック)の幅です。細いヘアークラックなのか、それとも構造的な影響が疑われる幅なのかによって、判断は大きく変わります。

 次に重要なのが、建物の傾斜量です。実際にどの程度傾いているのかを数値で把握することで、生活に支障が出るレベルかどうか、補修が必要かどうかを判断できます。

 さらに、「沈下が今も進行しているのかどうか」も大切なポイントです。すでに落ち着いている沈下なのか、それとも今も少しずつ動いているのかによって、対策方法はまったく異なります。

そして見落とせないのが、盛土の範囲の確認です。どこまでが人工的に埋め戻された地盤なのかを把握しなければ、正しい評価はできません。

 擁壁のある宅地では、建物そのものだけを見るのでは不十分です。
「建物」と同時に「地盤」を診断対象にすることが、安全性を見極めるうえで不可欠なのです。

詳しくは、以下の記事を参考にして下さい。

この事例から学ぶこと

 擁壁のある宅地では、まず「この土地は盛土ではないか」と疑う視点が大切です。擁壁を築造した後に埋め戻しや盛土が行われているケースは少なくなく、十分な転圧がなされていない場合、時間の経過とともに沈下が起こる可能性があります。

 テラスと建物の間に隙間が生じている場合も注意が必要です。わずかな隙間であっても、それは地盤や建物の動きを示すサインかもしれません。特に建物側ではなくテラス側が下がっている場合、盛土部分の沈下が疑われます。

 不同沈下は、建てた直後に必ず現れるとは限りません。数年、あるいは数十年をかけてゆっくり進行し、ある日ひび割れや傾きとして表面化することもあります。だからこそ「今は大丈夫そう」という印象だけで判断するのは危険です。

 さらに、大きな地震は盛土地盤に強い影響を与えます。自然地盤よりも締まりが弱い盛土部分は揺れによって圧縮され、沈下や変形を起こすことがあります。

 中古住宅を検討する際には、建物の状態だけでなく、その土地がどのように造成されたのかという「地盤の履歴」を確認することが重要です。見えない部分こそ、慎重に見極める必要があります。

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