床下5cmの滞水が引き起こした構造劣化

築20年の鉄骨3階建て住宅で、浴槽の施工不良により床下に長期間滞水が発生。鉄骨の腐食、アンカーボルトの劣化、床材の腐朽、電気設備への影響まで広がった深刻な事例を解説。定期点検と早期発見の重要性を示す調査報告です。 調査・診断事例
見えない漏水が20年間、建物を蝕んでいた

 「家全体が湿っぽい」
 「床がブヨブヨする」
 「押し入れにカビが出る」
 「結露が異常に多い」

このようなご相談を受け、築約20年の鉄骨3階建て住宅の調査を実施しました。外観は比較的きれいで、築年数的にも“まだ新しい”と感じる建物でした。しかし、床下・天井裏・設備周辺を確認すると、想像以上に深刻な状態でした。

床下に常時5cmの水が滞留

 床下を確認すると、上の写真の通り広範囲にわたり水が溜まっていました。しかも一時的なものではなく、長期間滞水していた形跡が見られました。

床下の慢性的な滞水は、

  ・湿気の上昇
  ・構造材の腐食
  ・鉄骨部材の錆び進行
  ・室内環境の悪化

を引き起こします。この時点で、建物全体に影響が及んでいる可能性が高い状態でした。状況は以下の通りです。

床仕上げの剥離と下地腐食

 床仕上げの硬質塩ビタイルが大きく剥がれ、下地の床板が黒ずみ腐食している状況です。長期間にわたる漏水や床下の滞水により、床材が常時湿った状態となり、接着剤の劣化と下地合板の腐朽が進行したと考えられます。
 内部では含水率の上昇が続いていた可能性が高い状態です。このまま放置すると、さらに床の強度低下や沈み込み、衛生環境の悪化につながる恐れがあります。

押し入れ内部のカビと漏水跡

 押し入れ内部では、壁と床面にカビが広がっていました。これは、部分的ではなく、1階の部屋全体に広がっていました。
 これは単なる表面結露ではなく、床下滞水による湿度上昇の影響と考えられます。鉄骨造は熱橋が発生しやすく、湿気が高い状態では一気に結露が進行します。
 室内環境の悪化は、鼻炎・くしゃみ・咳、喘息、皮膚炎などの健康被害にもつながります。

スイッチボックスの腐食と漏電リスク

 照明スイッチから錆色の水が出ているとのことで確認したところ、内部のボックスが腐食していました。
 水分が電気設備に影響すると、
 ・漏電
 ・ショート
 ・火災

のリスクが高まります。構造問題以前に、安全上の重大リスクを抱えていました。

天井裏の鉄骨床デッキの錆び

 天井裏を確認すると、鉄骨床デッキおよび梁表面に広範囲の錆が発生している状況です。塗装面が劣化し、湿気や結露の影響で腐食が進行していると考えられます。
 床下滞水により室内全体の湿度が高まり、上部構造にまで水分が回った可能性が高い状態です。錆が進行すると鋼材の断面欠損につながり、構造耐力の低下を招くおそれがあり、地震の際は倒壊の原因となります。

柱脚アンカーボルトの腐食

 鉄骨柱脚部の状況です。基礎に固定するアンカーボルトおよび柱脚プレート周辺に著しい錆びと腐食が確認されます。
 長期間にわたり床下に滞水が続いたことで、常時湿潤状態となり、鋼材の腐食が進行したと考えられます。アンカーボルトは建物を基礎に緊結する重要部材であり、腐食が進めば耐震性能の低下を招きます。さらに進行すると柱脚部が破断し地震の際は倒壊の原因となります。

原因は「浴槽の施工不良」

 さらに調査を進めると、浴槽の設置不良および排水接続ミスが判明しました。少量の漏水が、竣工して、住み続けてから、20年間にわたり床下に水が溜まり続けていたと推測されます。

この事例から学ぶこと

 この事例が示しているのは、「築年数が浅い=安心」ではないという現実です。築20年というと、まだ新しい部類に入る住宅です。しかし、施工不良や設備の接続ミスがあれば、完成直後から不具合は静かに進行します。見た目がきれいでも、内部では劣化が始まっている可能性があるのです。

 また、鉄骨造であっても湿気被害は決して軽視できません。鉄は水分と酸素があれば確実に錆びます。床下に滞水が続けば、柱脚や床デッキなどの構造部材が腐食し、やがて断面欠損へと進行します。鉄骨造だから腐らない、というのは誤解です。

 水は一気に建物を壊すわけではありません。少量の漏水でも、長期間続けば構造体を確実に蝕みます。床材の剥離やカビは“結果”であり、本質はその下で進行している劣化です。水は静かに、しかし確実に建物を破壊します。

 さらに見逃せないのが電気設備への影響です。湿気や漏水がスイッチボックスや配線に及ぶと、漏電やショートが発生し、最悪の場合は火災につながります。構造問題だけでなく、命に直結するリスクを孕んでいるのです。

 そして、最も重要なのは、原因究明と早期対応です。今回のように20年間気付かれなかったことで被害が拡大しましたが、定期的な点検を行っていれば、初期段階で漏水を発見できた可能性があります。早期発見であれば、床下全体の滞水や鉄骨の広範囲な腐食にまで進行することはなかったでしょう。住宅は完成したら終わりではありません。定期的な点検こそが、建物と住む人を守る最も現実的な方法なのです。

まとめ

 この住宅は、見た目には大きな問題があるようには見えませんでした。しかし、床下という“見えない場所”で20年間水が溜まり続けていたのです。

 水は静かに、しかし確実に建物を壊します。構造体・設備・室内環境すべてに影響を及ぼし、最終的には安全性そのものを脅かします。住宅は表面だけでは判断できません。床下・天井裏・構造部・設備接続部まで確認することが、本当の安心につながります。

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