日本は世界有数の地震国であり、これまでに多くの大地震が発生し、そのたびに住宅被害と尊い命の喪失が繰り返されてきました。特に、建築年の古い木造住宅では、現在の耐震基準を満たしていないケースも多く、「この家は本当に大丈夫なのか」と不安を抱えながら暮らしている方も少なくありません。
耐震診断とは、こうした不安を解消し、建物の安全性を客観的に把握するための調査です。構造や劣化状況を専門家の視点で確認し、地震に対する強さや弱点を明らかにします。本記事では、なぜ耐震診断が必要なのか、耐震診断とはどのようなものなのか、そして実際にどのような方法で調査・判断を行うのかを、できるだけ分かりやすく解説していきます。住まいと命を守る第一歩として、耐震診断の考え方を正しく理解していただければ幸いです。
既存木造住宅の耐震診断方法
既存木造住宅の耐震診断には、主に
- 一般診断
- 精密診断
の2つの方法があります。どちらも「地震に対してどれくらい安全か」を評価するものですが、
調べ方の深さと目的が少し違います。その説明をします。
一般診断とは?
■ もっとも一般的な診断方法です
一般診断は、「今の家が大地震でどれくらい持ちこたえられるか」を、図面や現地調査をもとに総合的に評価する方法です。実際に、具体的にどういうことを調べるのかといいますと、
例えば、次のような項目です。
- 壁の量は足りているか
- 耐力壁のバランスは良いか
- 筋かいは適切に入っているか
- 接合金物はあるか
- 基礎に問題はないか
- 劣化や腐朽はないか
これらを数値化し、「評点」という数字で表します。
■ 評点の目安
- 1.5以上 … 安全性が高い
- 1.0以上 … 一応倒壊しないレベル
- 1.0未満 … 倒壊の可能性あり
一般診断は、補強が必要かどうかを判断するための診断です。
精密診断とは?
精密診断は、より詳細に計算を行う方法です。
■ 一般診断との違い
- 柱や梁の一本一本の強さを計算
- 接合部の力の伝わり方まで検討
- 建物全体を構造計算的に解析
つまり、「どの部材がどれくらい力を負担するか」まで細かく検証します。
■ どのような場合に使うのか
- 重要建築物
- 大規模改修を行う場合
- 一般診断で判断が難しい場合
など、より高度な検討が必要なときに行います。
なぜ通常は「一般診断」なのか?
通常、小規模の既存木造住宅においては、「一般診断」を使います。その理由は、
理由① 制度上の標準方法だから
多くの自治体の補助制度は、一般診断を前提としています。
理由② 費用と効果のバランスが良い
精密診断は時間も費用も大きくなります。一般住宅では、まず一般診断で危険度を判断するのが合理的です。精密診断の場合、詳細調査が必要ですので、天井に必要に応じて点検口をつけたり、壁を破壊する場合もあります。
理由③ 補強設計に十分使える
一般診断でも、
- どこが弱いか
- どれだけ補強すればよいか
は十分把握できます。わかりやすく例えると…
- 一般診断 = 人間ドック
- 精密診断 = CTやMRI検査
まずは人間ドックで全体の状態を確認し、必要なら詳しい検査をする、というイメージです。当事務所においても、通常は、「一般診断」でもって診断します。そして、必要に応じて「精密診断」を行います。
以下の記事も参考にしていたくと、さらに理解が深まります。
耐震診断(一般診断)の実例
それでは、耐震診断(一般診断)とは実際にどんな方法で行うのか、その結果よりどう判断するのかを詳しく説明しています。
ここでは、「日本建築防災協会」による“木造住宅の耐震診断と補強方法(一般診断)”に準じて耐震診断を行いました。診断ソフトは、「ホームズ君耐震診断Pro」を使用しています。
現況の確認
まずは、現況の図面がある場合には、その現況図と実際の間取りが一致しているのかどうかを確認します。現況図が無い場合には、現地にて状況を確認しながら、間取り図を作成します。そして、その劣化状況と間取り図を診断ソフトにデータとして入力します。その実例が以下の通りです。現況調査の詳細は、以下のページでご確認下さい。
建物概要と状況

- 天井裏、小屋裏に関して
天井裏、小屋裏に関してですが、全体的に、良好で小屋組全体はしっかりしています。四隅には火打が設置してあります。 - 筋違いに関して
筋かいですが、天井裏・床下を見ると部分的に確認できたものの、全体は確認できませんでした。しかしがながら、検査済証があるため図面通りと判断します。 - 柱頭・柱脚部・筋かい接合部
柱頭・柱脚部、筋かいには金物は確認できませんでした。
地盤・床下・基礎形式・柱頭柱脚接合部・筋かい接合部
- 地盤に関して
地盤に関してですが、北側の犬走りコンクリートに亀裂があります。これは、度重なる地震の振動、不同沈下などにより生じたものと思われますが、これは、かなり前のことで現在は安定しています。 - 床下に関して
床下に関してですが、キッチン床点検口より状況を確認しました。乾燥状況は良く、目視できる範囲では、土台・柱には蟻害、腐食はありませんが、今後のことを考えて、白蟻がつかないうちに、防蟻工事をされることをお勧めします。 - 基礎に関して
基礎は、鉄筋探査機にて、鉄筋の有無を確認しましたが、反応しませんので、無筋と判断します。コンクリートは、ひび割れなどもなく、健全な状態です。

現況図
■2階現況

■1階現況

劣化状況 所見
- 外壁、軒裏に関して
全体的にひび割れがあります。補修はしてありますが、その補修が劣化して、再度、ひび割れが発生しています。ひび割れを放置し、その部分から内部に水が浸入すると柱・梁・土台の構造材が腐食して、強度・耐久性が低下し、地震がきた際、破損・倒壊の原因となりますので、早目の補修をお勧めします。 - 屋根・樋に関して
屋根は、ガルバリウム鋼板貼です。最近に葺き替えをされたようで、劣化はありません。軒樋は、大きく劣化はしていませんが、部分的に垂れているところがあり、勾配が変わっています。大雨の際、オーバーフローして、それが漏水の原因となりますので、補修されることをお勧めします。 - 内部の状況に関して
浴室、便所の壁タイルに多くのひび割れが見られます。補修はされていますが、すでに内部に水が浸入し、土台・柱が腐食している可能性もあります。 - 和室の柱に関して
数か所、レーザーレベルにより傾きを測定しました。全体的に柱頭と脚元とで、北西方向に最大15mmの傾きがあります。これは、造成される際に盛土をして、その部分が、不同沈下をしたものと思われます。 - 間取りに関して
南側に大きな掃き出し窓が設置されており、東西方向に開口が多い状況です。
劣化状況をまとめると以下の通りです。

上部構造評点
以上のデーターをもとに国土交通省監修、日本建築防災協会による“木造住宅の耐震診断と補強方法(一般診断)”に準じて耐震診断を行いました。評点は、038となっており、大地震が来ると「倒壊する可能性が高い。」という結果になっています。これは、柱頭・柱脚、筋違に金物が設置されていないこと、和室廻りに大きな開口があること、基礎に鉄筋が入っていないこと、外壁などにひび割れがあり、劣化が進んでいることなどが評点を下げている原因です。

総合評価


考えられる補強方法
大きな地震に耐え、倒壊を防ぐために、詳細調査をされた上で、補強工事をされることをお勧めします。補強工事の方針としては、壁のひび割れ、樋など劣化している部分を補修する。開口が多く、耐力が不足している部分に筋違や構造用の合板などによる耐力壁をバランス良く配置する。そして、筋違や柱と梁・土台との取り合い部分に金物をしっかりと緊結し補強するなどです。基礎を補強するのも良い方法です。
以下の記事も参考にしていただくと、さらに理解が深まります。
耐震診断特集(幸せ住まいづくり講座)
当社が作成・運営しています「幸せ住まいづくり講座」では、耐震に関する関連記事を数多く掲載しています。基礎知識を身につけ、正しく知ることが大切です。住まいの安全を考える第一歩として、ぜひご一読ください。






