本事例は、築約40年の鉄筋コンクリート造(RC造)住宅に関する調査報告です。中古住宅の購入を検討されているお客様から、「建物に大きな劣化がないか確認してほしい」とのご依頼を受け、現地調査を実施しました。
今回重点的に確認したのは、1階の天井裏、すなわち2階床スラブ(コンクリート床)の下面部分です。普段の生活では見ることのない場所ですが、構造体の状態を知るうえで非常に重要なポイントです。
天井点検口から内部を確認したところ、2階床スラブ(床)の一部でコンクリートが剥がれ落ち、内部の鉄筋が露出して、錆びている状態が確認されました。これは単なるコンクリートの劣化ではなく、構造躯体そのものに関わる重要なサインです。
現地で確認した状況

これは、床下の柱足元の写真です。同様に
- コンクリートがめくれ落ちている
- 鉄筋が露出している
- 露出した鉄筋が著しく錆びている
という状態です。これは、RC造における典型的な「かぶり不足による中性化劣化」事例です。
「かぶり厚さ」とは何か
かぶり厚さとは、”コンクリート表面から鉄筋までの距離”のことをいいます。
この距離は、
- 床
- 梁
- 壁
- 外部に面する部位
- 水に触れる部位
など、部位ごとに建築基準・仕様基準で定められています。なぜなら、このかぶり厚さこそが、鉄筋を守る防御層なのです。


劣化のメカニズム
コンクリートは本来「強アルカリ性」です。そのアルカリ性が、鉄筋を錆びから守っています。しかし、かぶり厚さが不足すると、外気中の二酸化炭素がコンクリート内部に侵入します。これにより起こるのが、「コンクリートの中性化」です。アルカリ性が失われると、鉄筋を守る力がなくなります。「コンクリートの中性化」が起こると、
鉄筋が錆びる ⇒ 錆びると体積が膨張する ⇒ 膨張がコンクリートを内側から押し出す ⇒ コンクリートが剥離・落下する
という悪循環に入ります。鉄筋がさらに露出すると、
- 錆は加速し
- 体積はさらに増加し
- 剥落範囲は拡大し
- 強度は低下していきます
長期的には、耐久性低下、地震時に倒壊するリスク増大へとつながります。
なぜ「かぶり不足」が起こるのか
施工時には、鉄筋と型枠の間にスペーサーを設置し、所定のかぶり厚さを確保します。しかし、
- スペーサー不足
- 施工精度不良
- 当時の施工基準の甘さ
- 打設時の鉄筋ずれ
などにより、十分なかぶりが確保されていない場合があります。築40年前後のRC住宅では、こうした事例は決して珍しくありません。
この場合の対処方法
部分的な劣化の場合
このように鉄筋が露出している状況は、どんどんと劣化が進行していくので、これを防止し、所定の強度を回復させる必要があります。その方法として、
- 劣化コンクリートを除去
- 錆びた鉄筋を露出させる
- 錆をケレン(除去)する
- 防錆処理
- 専用補修モルタルで断面修復
いわゆる「断面修復工法」による部分補修が可能です。ただし、これは局所的な対処です。
全体的に劣化が進行している場合
この状況が部分的であれば、その部分だけを補修すればいいのですが、これが全体に広がっているとか、劣化が深刻であれば、対処法がかわってきます。
- 広範囲補修
- 外壁全面改修
- 構造耐力評価
- 最悪の場合、建替え検討
という判断が必要になります。RC造だから安心とは言えません。
本来は、木造であろうと、鉄筋コンクリート造であろうと、新築時に鉄筋が組み終わると配筋状況をしっかりと検査する。検査を行い、不具合が見つかれば、修正するということが重要です。以下の記事を参考にして下さい。
この事例から学ぶこと
鉄筋コンクリート造は、一般に「強い建物」と言われます。しかし、「強い=劣化しない」という意味では決してありません。
本事例が教えてくれる大切なポイントは、次の通りです。
✔ RC造であっても劣化は確実に進行する
✔ かぶり厚さは耐久性を左右する“生命線”である
✔ 中古住宅購入前には天井裏、床下など通常では観えない部分の確認が必須
✔ 表面が美しくても内部で劣化が進んでいる場合がある
✔ 部分補修で済むのか、構造的な問題なのかの見極めが重要
特に築30~50年クラスのRC住宅では、
・コンクリートの中性化の進行
・塩害の有無
・施工時の不備
・かぶり厚さ不足
これらの確認が極めて重要になります。中古住宅の調査というと、「床下」を思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし、RC造の場合は「天井裏(床スラブ下面)」の確認も不可欠です。
見えない場所で進行する劣化は、やがて耐久性や安全性に影響を及ぼします。この事例は、“見えない劣化が将来の大きなリスクにつながる”という現実を、私たちに教えてくれています。
だからこそ、中古住宅購入時には、表面だけでなく、構造体の状態まで丁寧に確認することが本当に大切なのです。



