こちらは築50年の木造平屋住宅の小屋裏の写真です。一見すると丸太梁がしっかり入っているように見えますが、構造的に見ると非常に不安定な状態です。この住宅は「伝統的なつくり」に見えて、実は耐震的には極めて弱い構成となっています。
現状から見える重大な問題
小屋束の本数が極端に少ない
- 丸太梁は入っていますが、それを支える小屋束が不足しています。
- 重たい土葺き瓦屋根の場合、棟部分がたわむ可能性が高い構成です。
- 長期的には梁の変形、屋根の沈下が進行します。
👉 屋根荷重を支える構造バランスが崩れています。そして、大きな地震がくると屋根が崩壊してしまう危険性が高いです。
間仕切り壁が梁まで到達していない
- 間仕切り柱が途中で止まっています。
- 梁に緊結されていません。
- 下地材程度で固定されているだけです。
👉 地震時に壁が「構造体」として働きません。
土壁が梁まで達していない
- 土壁はありますが、構造壁になっていません。
- 上部構造と一体化していません。
👉 地震力を負担する耐力要素が存在しない状態です。
筋交いが一本も入っていない
- 現行基準では必須の耐震要素が皆無です。
- 横揺れに対して極めて弱い構成です。
👉 震度6以上では倒壊リスクが高い可能性があります。
なぜこの構造は危険なのか
地震力は、
「屋根」⇒「梁」⇒「柱」⇒「基礎」⇒「地盤」
へと流れる必要があります。しかしこの建物は、
・壁が梁とつながっていない
・柱が構造として機能していない
・筋交いがない
つまり、力を受け止める経路が存在しません。安全に安心して生活できるようにするためには耐震改修が必要となります。
耐震改修は可能か?
現状をみると
- 壁を増やすだけでは意味がない
- 柱が梁まで届いていない
- 丸太梁に金物緊結が困難
- 小屋組の再構成が必要
こうなると、壁・天井を全て解体して、改修工事を行う必要があります。しかしながら、これが可能であるのかどうかという問題が発生します。
想定される改修内容
- 小屋組の組み替え
- 新たな梁の設置かもしくは補強
- 柱の新設
- 筋交いの設置
- 基礎の補強または新設
- 土間コンクリート施工
- 金物補強
ここまで来ると、ほぼスケルトン改修レベルになります。
改修費用が高額化する理由
- 柱が使えない
- 梁が丸太で接合困難
- 基礎が無筋の可能性
- 現行法に適合させる必要
耐震改修が大規模になると、
- 確認申請が必要
- 現行基準適合が求められる
結果として、解体して新築した方が合理的な場合もあります。
このような中古住宅を購入したい人へ
- 古民家風
- 丸太梁
- 土壁
これらは味があって、魅力的ですが、構造性能とは別問題です。
購入前に必ず確認すべきこと
- 小屋裏の状況確認
- 筋交いの有無
- 柱と梁の接合状況
- 基礎の仕様
- 不同沈下の有無
いずれも見えない部分ですが、安全に生活するためには、この部分をしっかりと確認し、必要ならば補強を行います。
今ある家を耐震改修したい人へ
現状の家が築古でこのような伝統的建物であれば、構造的な診断を行う必要があります。
・耐震診断
・レベル測定
・基礎調査
この調査・診断を行い、現状を見据えて、しっかりとした構造計画が必要となります。これをせずに工事を始めるのは危険です。
判断の目安
✔ 改修で性能向上が合理的 → 改修
✔ 構造をほぼ組み直し → 建替え検討
伝統的建物は味がり魅力的ですが、安全性と現実的な問題、つまりは、構造と費用で判断することが大切です。
この事例から学ぶこと
この事例からまず理解しておきたいのは、古い木造住宅は、現在の建物とは「構造思想」そのものが異なるという点です。築50年前後の住宅は、当時の材料や施工方法、そして法制度のもとで建てられており、現在の耐震基準を前提とした設計にはなっていません。見た目に太い丸太梁や立派な土壁が使われていても、それが現代の耐震性能を満たしているとは限らないのです。
また、外観や小屋裏の雰囲気が重厚で魅力的であっても、耐震性はまったく別の問題です。構造として力の流れが成立しているか、柱・梁・壁・基礎が一体となって地震力を受け止められるかどうかが本質であり、意匠的な印象だけでは安全性を判断することはできません。
さらに重要なのは、「部分補強で済むのか、それとも構造全体を見直す必要があるのか」は、専門的な診断を経なければ判断できないということです。壁を少し増やせばよいのか、柱や梁の組み替えまで必要なのかによって、工事規模も費用も大きく変わります。自己判断や感覚的な判断ではなく、構造診断に基づく冷静な検討が欠かせません。
そして場合によっては、耐震改修に多額の費用をかけるよりも、いったん解体し、現行基準に適合した建物へ建替える方が、安全性・合理性の面で優れていることもあります。思い入れのある建物であっても、「これから安心して暮らせるか」という視点を最優先に考えることが、住まい選び・住まい再生の最も大切な判断基準なのです。

